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すし・天ぷら…江戸前料理をたどる

にぎりずし、天ぷら、そば――。和食の代表といえる料理は江戸時代に形を確立し、庶民が愛したことで今の隆盛に続いている。現代の江戸前料理の発展した味に残る、歴史ぶりと仕事を探ってみた。

「料理の周期は70年と言われ、人の好みの変化で消え、新たな味が生まれる繰り返し。でも刺し身と納豆、豆腐は変わらない」と東京都豊島区にある江戸前料理「なべ家」の主人、福田浩さん(80)は話す。

江戸時代には数百冊を超える料理本が出版された。福田さんは当時の本をひもとき、再現する研究家でもある。ベストセラー「豆腐百珍」(天明2年=1782年)は続編などを併せ約270品の豆腐料理を紹介する。福田さんは約200品を再現したという。

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 「豆腐を小さく5ミリ角に切るだけで、食感が全く違うものになるから驚き。食べてみて」。お薦めの言葉に誘われて、朱塗りのおわんに盛った豆腐がゆをすすった。葛のトロリとした汁の中に躍る白い小さな粒は味噌汁の豆腐とは明らかに違う歯応え、舌触りだ。しっかり粒を感じながら、さらりと胃に流れていく。

氷豆腐は寒天の中で豆腐が浮いているように見える不思議なデザート。黒蜜が味を引き立てる。

なべ家の氷豆腐(東京都豊島区)
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なべ家の氷豆腐(東京都豊島区)

豆腐がゆを出すなべ家の福田さん(東京都豊島区)
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豆腐がゆを出すなべ家の福田さん(東京都豊島区)

 

「『料理物語』(寛永20年=1643年)は昔から伝わるごく普通の料理を書きとめた本。例えばうどんのゆで方は『食いてみ申し候』とある。調理法が食べてみれば良いというのは禅問答のようだけど、食べて自分の好きなように調整しろというのは正しい」と福田さんは江戸の料理本の奥深さを解説する。

料理を再現するには食材が、調味料がガスなどの熱源が、なにより我々の舌が違う。それでも、料理の中にある技術、職人の仕事を知ると、今に残る江戸の工夫が分かって面白い。神田・日本橋の老舗に、現代の料理に残る昔ながらの仕事について聞くことにした。

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づけマグロとコハダ(東京都中央区の吉野鮨本店)。江戸の工夫が今に残る
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づけマグロとコハダ(東京都中央区の吉野鮨本店)。江戸の工夫が今に残る

「にぎりずしは江戸の後半に登場した料理。井戸水しかないなかで魚の鮮度を持たせるため、手を加える技術が高まった」と話すのは明治12年(1879年)創業の吉野鮨本店、五代目の吉野正敏さん(47)だ。

同店は昔の仕事が色濃く残る。光り物のコハダは塩や酢に漬けるのを長く2~3時間。きつく締めて出す。エビはゆでて塩をした後、甘酢をくぐらせる。マグロの赤身はしょうゆに浸す「づけ」が健在だ。

「かつてマグロと言えばカジキや赤身が主流で脂の多いトロは一膳飯屋で食べるくらい。でも二代目の頃、不漁で赤身が取り合いになり、すしとして出したそうです」。当時はアブとか、ダンダラと呼んでいたがうまそうでない。常連客に相談したところ「これうまいよ。トロけるうまさだ。トロと呼ぼうよ」。この呼び名が全国に広がった。

アワビの身とキモの天ぷら(東京都中央区のてん茂)
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アワビの身とキモの天ぷら(東京都中央区のてん茂)

「しゅーっ。パリパリ」。衣を軽くつけた魚介類を銅鍋に投じるとゴマの香ばしい香りが広がる。日本橋本町のてん茂は明治18年(1885年)に屋台から始めた。四代目の奥田秀助さん(54)は「江戸の天ぷらと言えば芝浜から浅草あたりであがった魚。野菜は精進揚げとして別物で、天ぷら屋台を描いた絵をみると魚をすり身にした、さつまあげのようなものを串に刺して出している」と話す。

てん茂は江戸前の天ぷらを引き継ぎ、白ゴマを煎って絞るゴマ油100%の揚げ油だ。江戸前の魚介が減った分、四代目は寺島ナスや品川カブなど、復活する江戸野菜を導入している。

「地方のそば打ちの技法が参勤交代とともに江戸に来て洗練され、再び地方に広がった」。明治17年(1884年)創業のそば店、神田まつや六代目、小高孝之さん(50)はそう話す。

神田まつやの大もり(東京都千代田区)
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神田まつやの大もり(東京都千代田区)

そばは大正の半ばから昭和にかけて機械打ちが広がり、手ごねは不衛生としてほぼ消えてしまったという。現在は復活したものの、まつやのように100%手打ちはごくわずか。ひきぐるみの粉を使うこと、打つのにのし棒と、生地を巻く巻き棒を田舎そばより1本多い2本使うのが江戸そばのこだわりだ。

「師を似せる事から入るのが『しにせ』という。変えないもの、変えるべきものの分別をつけるのが受け継ぐ私の役目です」と小高さん。濃いめのつゆとすすると、歴史の味がした。

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